先月は子どもの薬の飲ませ方のお話でしたので、今月は妊娠と授乳と薬に ついてお話ししようと思います。
妊娠中や授乳中は、お薬の使用について不安に感じる方も多いと思います。
医師や薬剤師の妊娠中や授乳中の方への薬剤についての情報源として、 医薬品添付文書があります。
これは正しく理解するには専門の知識が必要なため、お薬と一緒にお渡し する薬剤情報提供書とは別のものです。
この医薬品添付文書には参照すべき情報が記載されていますが、この記載に従えば多くの薬剤は妊娠・授乳中の方への使用は難しく、実態に即していません。
①投与しないこと
②投与しないことが望ましい
③医療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること
④減量または休薬すること
⑤大量投与を避けること
⑥長期投与を避けること
⑦本剤投与中は授乳を避けること
⑧授乳を中止させること
このような記載がされています。
お薬というのは「くすり⇔リスク」、良い作用であれば効果であり、悪い作用であれば副作用です。
胎児や乳児にとってはリスクだけと思われるかもしれませんが、妊娠・授乳中の方と胎児・乳児どちらの 健康の確保が大切です。
胎児・乳児の安全のみ優先し、妊娠・授乳中の方の健康を犠牲にすることは、結果として胎児・乳児の健康も害するリスクがあります。
妊娠中の場合は胎児の順調な発育を損なうリスク、授乳中の場合は母乳を中止することでの患者・乳児への リスクも考えないといけません。
医師や薬剤師は医薬品添付文書以外の情報をチェックし、総合的にそのお薬が適切かどうか判断しています。
妊娠中の方のお薬の使用で考えるべきことは、その薬剤は胎児に形態異常(催奇形性)や機能障害(胎児毒性)を引き起こさないかということです。
それらは投与された時期に関係します。妊娠周期が早いうちは催奇形性が、その後は胎児毒性が問題となってきます。
また、お薬を使用していない妊娠中の女性でも胎児の先天異常は小さな異常も含め3~5%、約15%は自然流産に終わると言われています。
このリスクと比べ、どの程度のリスク上昇をもたらすか考えることが大切とされています。
授乳中の方のお薬の使用で考えるべきことは、その薬剤は母乳を通して乳児に問題となるかということです。
お薬を使うからといって授乳を止めることはできるだけ避けるべきです。
授乳を止めるべきでない理由として次のことが考えられています。
【母乳育児のメリット】
子どもにとって:感染症の低下 認知機能の向上 メタボリックシンドロームの予防 …
母親にとって :乳がん・子宮体がん・卵巣がんの罹患率低下 骨粗しょう症・関節リウマチ・糖尿病の減少
産後肥満の予防 …
母乳中に薬剤がどの程度移行するかは同じではありませんが、原則的には母親が摂取した薬剤の1%以下しか母乳には分泌されません。
一般的には、母親への投与量の10%以下なら乳児には安全と考えられています。
また、その薬剤が乳児にも使用できるものを選択されることが多いでしょう。
以上のようなことを踏まえて、医師や薬剤師は妊娠中や授乳中の方のお薬について考えています。
妊娠していたり、授乳していても使えるお薬はあります。
治療に不安にならず医師や薬剤師に相談してみてください。
平田店 前田
参考書籍:
伊藤真也 福島温子(2010)『妊娠と授乳』南江堂
社団法人愛知県薬剤師会 妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班(2012)『妊娠・授乳と薬』
三宅麻由(2014)「妊婦・授乳婦がかぜをひいたら」『Gノート「普通のかぜ」をきちんと診る』(2014年10月号)pp.542-551 羊土社