9月のお知らせ(アルコール依存症の治療薬について)

  アルコールは、昔から多くの人々に愛され、摂取され続けて、現在でも身近な存在となっています。しかし、長期に過度に飲みすぎてアルコール依存症となると、様々なトラブルを引き起こすことがあります。アルコール依存症の治療は心理社会治療が中心となりますが、治療をサポートする選択肢の一つとして薬物治療があります。従来では、アルコール依存症に対して、アルコールによる離脱症状や不眠・不安などの併発症状を軽減させる薬と、断酒を維持するための薬が用いられてきました。近年、飲酒量を減らすことを目的とした新しい薬が登場し、さらに治療の選択肢が広がっています。

 

 今回は、アルコール依存症の人にとっての治療の助けとなる抗酒薬(嫌酒薬)と断酒薬(補助薬、飲酒量軽減薬)についての話にします。

 

 抗酒薬について

 抗酒薬とは、服用中に飲酒した場合、脳に不快感が生じることにより、酒が嫌いになる薬です。

摂取したアルコールはその9割近くが胃粘膜で吸収され、血液を介して全身に運ばれます。その後、肝臓の解毒酵素により分解されて最終的にはエネルギーとして消費され、水と二酸化炭素になります。

その途中の中間産物として人体に有毒なアセトアルデヒドが作られます。このアセトアルデヒドの濃度が高くなると、吐き気や頭痛、動悸、冷や汗の症状、顔面紅潮、呼吸困難、さらには臓器障害を引き起こして中毒症(急性アルコール中毒の原因にもなる)となる場合があります。

 抗酒薬とは、一時的にアセトアルデヒドの分解を妨げて蓄積させることにより、吐き気や頭痛等の不快症状を引き起こして飲酒をそれ以上続けられなくするお薬です。ただし、現在飲酒が続いている状態を断つ効果や飲酒の欲求を止める効果はありません。体内にアルコールがある状態では、効果が減弱するため、あくまで継続的に禁酒されている方のサポート薬としての利用となります。

 抗酒薬には、ジスルフィラム(ノックビン)とシアナミド(シアナマイド)があります。

 

 断酒薬について

 国内では従来、脳内に作用して飲酒への欲求を減らす断酒薬として、アカンプロサート(レグテクト)が用いられてきました。ただ、アカンプロサートは、断酒している人が服用すると断酒率が上がりますが、飲酒量

自体を少なくする作用はなく、そのため、きちんと断酒をしていることが服用の前提となっていました。しかし近年、飲酒量自体を軽減する作用をもつナルメフェン(セリンクロ)が認可され、さらなる断酒効果が期待されるようになってきました。

 

 いずれの薬剤を用いた場合でも、薬物療法の有効性に影響を与える重要なことは、服薬のアドヒアランス(納得したうえで、きちんと服用できていること)です。このアドヒアランスを向上させるために、家族の方に服用のチェックをしてもらうことや、薬箱・お薬カレンダーなどで服用したかどうかを確認できるようにすることも効果的だと考えられます。

 また、これらの薬を服用しただけで断酒に成功するというものではありません。他の心理・社会的な治療や、自助グループ(互いに励ましあいながら、その障害を様々な形で克服していくための多くの仲間との出会いの場;断酒会、AAなど)への参加などを組み合わせることが、効果を最大限に得るために重要なことだと思います。

                                       矢橋店 和田